インプラント手術における神経麻痺は、起こりうる合併症の一つであり、特に下顎のインプラント手術で注意が必要です。
神経麻痺とは
インプラント手術では、顎の骨にインプラント体を埋入しますが、この際に神経を損傷したり圧迫したりすることで神経麻痺が生じることがあります。特に、下顎骨の中には「下歯槽神経」という太い神経が通っており、この神経が損傷を受けると麻痺の症状が出ることがあります。その他、「舌神経」「眼窩下神経」の損傷も報告されています。
症状
神経麻痺の症状は多岐にわたります。
- しびれ、感覚鈍麻:麻酔が効いているような感覚が続き、唇や顎、舌などの感覚が鈍くなったり、全く感じなくなったりすることがあります。
- 痛み:ビリビリとした痛みや、触れただけで痛みが生じる神経障害性疼痛(三叉神経ニューロパチー)が現れることもあります。
- 機能障害:口の感覚が鈍くなることで、話しにくくなったり、食べ物を噛みにくくなったりする場合があります。
- その他:無意識に唇を噛んで出血したりすることもあります。
発生確率
インプラント治療における下歯槽神経麻痺の発生確率は0.13%~8.5%と言われています(一時的な麻痺も含む)。
原因
主な原因は以下の通りです。
- 神経への接触・圧迫:インプラント体が直接神経に触れたり、神経を圧迫したりすることで損傷が生じます。
- 手術中のドリルによる損傷:インプラント埋入時に使用するドリルが神経に近づきすぎたり、当たったりすることで神経を損傷する可能性があります。
- 事前の検査・診断不足、手術ミス:神経の位置を正確に把握していなかったり、不適切な手術手技により神経損傷が起こる場合があります。
治療法
神経麻痺の治療法は、損傷の程度や原因によって異なります。
- 経過観察:軽度で一時的な麻痺の場合、自然回復を待つことがあります。この間、神経再生を促すビタミンB群を含むサプリメントや鎮痛剤が処方されることもあります。
- 神経修復薬の服用:ビタミンB12やATP(アデノシン三リン酸)など、神経の回復を促す薬が用いられます。
- 神経ブロック注射:局所麻酔薬を注射することで、症状の軽減が期待できます。
- インプラントの撤去・再手術:インプラントが直接神経を圧迫している場合や、神経損傷が重度の場合には、インプラントを一時的に除去したり、位置を調整して再埋入したりする手術が必要になることがあります。
- 神経縫合・移植手術:神経が断裂しているような重度の損傷の場合、顕微鏡下での神経縫合や移植手術が行われることもありますが、日本ではあまり一般的な治療ではありません。
予防策
インプラント手術における神経損傷のリスクを最小限に抑えるためには、以下の点が重要です。
- 術前の十分な検査:CTスキャンやレントゲンを用いて、顎の骨の状態や神経の位置、上顎洞の形状などを正確に把握することが非常に重要です。3Dシミュレーションを活用することで、より精密な手術計画を立てることができます。
- 歯科医師の経験と技術:インプラント治療の実績が豊富で、解剖学的な知識を深く持った歯科医師を選ぶことが大切です。
- 設備の充実:歯科用CTスキャンや3Dシミュレーションシステムなど、最新の設備が整っている歯科医院を選ぶことが推奨されます。
- 衛生管理の徹底:手術室や使用器具の消毒・滅菌が徹底されているかも確認しましょう。感染症のリスクを低減できます。
- 術後の適切なケア:術後は感染症予防のため、口腔内を清潔に保つことが重要です。歯科医師の指示に従い、処方された薬を服用し、飲酒や喫煙は控えましょう。
もしインプラント手術後にしびれや麻痺の症状が続く場合は、速やかに歯科医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です

